クリエイターとともにつくる 板紙の未来 | 北村貴則(代表取締役社長)
1952年創業の大和板紙。昔も今も変わらぬ、板紙をつくる会社です。しかし、創業から70年を経て、大きく変わったことがありました。
時代の流れを読み、板紙で新たな波を起こす北村貴則(2代目/代表取締役社長)に、これまでの歩みと板紙の未来を尋ねました。
ニュージーランド留学を経て家業へ
大和板紙に入社した経緯を教えてください。
僕は1993年に新卒で入社しました。大和板紙は僕の父(北村光雄/現取締役会長)が創業者です。でも若い頃は、卒業後すぐに家業に入るとは考えていませんでしたよ。大学時代は進路に悩んで、海外逃亡がてらニュージーランドに留学しましたしね(笑)
なぜニュージーランドに?
自分探しですね。海外移住も視野に入れ、約1年半、語学を学びました。でも留学中に「幅広い視点を持ち、いつかビジネス全体を動かしてみたい」と思い、経営者を志すようになりました。当時うちには後継者候補がいなかったので、跡を継ぐ予定で入社しました。
入社後はどんなお仕事を?
最初に任されたのは、紙の原料の仕込みです。当時は生産量も多かったので、土日を問わず工場に通っていました。
入社3年目頃から、製造と営業を両方任されるようになりました。営業を経験していくうちに、「我々メーカーの営業スタイルはこれでいいのか」と考えるようになりました。
“営業先の向こう側”を目指して
当時はうちの板紙が世間でどう活用されているのか、一切わかりませんでした。
板紙は、我々のような「メーカー」と、紙を使う「ユーザー(デザイナー、クリエイター)」との間に、商社が介在します。そのため僕らの営業先は、商社や代理店です。だからユーザーと対面する機会がありませんでした。
ユーザーの率直な声は、会社の成長に必要不可欠です。僕は「営業先の向こう側に行かなければ」と思い、彼らへの直接的なアプローチをはじめました。
それは自社商品にユーザーの意見を取り入れたいという思いから?
そうですね。我々には、長年培った板紙作りの技術がある。でも、「ユーザーのニーズに合わせた商品開発」が困難でした。流通システムは慣例に沿ったまま、ユーザーとの関係性構築に乗り出しました。
デザイナーとの板紙づくりに挑む
大和板紙が数々のユニークな板紙を作るようになったきっかけは?
2008年頃、リーマンショックの影響で受注が大幅に減りました。そこで社員たちに「この機会に色々な板紙を作ってみよう」と呼びかけたんです。みんなでアイデアを出し合い、素材や色を工夫して、毎月テストを重ねました。でもね、完成した板紙はどれもイマイチだったんですよ(笑)
我々は板紙のプロだから、技術や知識はあります。でも最新のトレンドや、デザイナーさんが板紙に求めるデザイン性はわからない。
デザイナーさんたちは、その逆です。流行のデザインは知っている。でもそれを実現するために、まさか板紙から作れるとは思っていない。「紙はあるものの中から選ぶもの」と認識しているケースがほとんどです。
このような背景がある中、とあるデザイナーさんに「どんな板紙が欲しいですか?」と尋ねてみたところ、とても喜んで相談に乗ってくださいました。そのアイデアをもとに板紙を作ったら、とても良い板紙ができた。
その後もデザイナーさん、装丁家さんたちのアイデアを参考に商品開発をすすめ、現在のラインナップになりました。
アイデアをかたちにできる技術力があるからこそ出来たことですね。
現場の社員たちは「できない」とは言いませんね。我々は板紙メーカーですから、デザイナーさんの要望には板紙で応えたい。
デザイナーさんたちは、心から紙が好きな方が多いんです。工場見学でうちの古い見本帳を見て、「これを肴に酒が飲める」とおっしゃった方もいますよ(笑) 社員たちには、「板紙の魅力をよく知るデザイナーさんを、自分が作った板紙で喜ばせたい」という想いがあるのかもしれません。
板紙の個性は売り場でこそ際立つ
デザイナーやクリエイターと関係性を築いたことで、他に新たな気づきはありましたか?
デザイナーさんは板紙の活かし方もよくご存知だと、改めて気付かされました。板紙の特性や個性をデザインに上手く反映される方がたくさんいらっしゃいます。
例えばお饅頭は、一般的に「白い箱に綺麗な掛け紙」をして売られます。
従来、お饅頭箱の受注を得るためには、競合他社との白い箱同士の争いでした。丈夫さ・軽さ・安さなど、「白い箱」の範囲内で戦っていた。
でも、実際に箱を作るデザイナーさんの考え方は異なります。
お饅頭の特性を深く掘り下げ、デザインに反映しようと考えた結果、「『黒い箱に白い掛け紙』をしたほうが、お饅頭の商品コンセプトがより明確に表現できる」と考えるケースが多いです。
我々はそのようなデザイナーさんたちに、「白い箱」以外の選択肢を提示できる存在でありたいんですよ。
その後、大和板紙の板紙がどのように活用されているか知る機会も増えましたか?
そうですね。書籍の装丁や商品パッケージなど、我々の板紙を使っていただけるシチュエーションも増えました。発売の連絡を受けて、実物を見に店舗へ足を運ぶこともあります。
売り場で特に印象的だったことを教えてください。
以前あるコスメブランドの化粧箱に、当社の「Uボードシリーズ」が採用されたんですよ。「Uボードシリーズ」は、味があっておしゃれだけれど、地味な板紙です。なぜ選ばれたのか不思議に思い、発売後、百貨店の化粧品売り場を訪ねました。
驚きましたね。売り場で一番目立っていたのは、その化粧箱でした。
当時コスメブランドの多くは、ぴかぴか光沢感のある、カラフルな板紙を化粧箱に採用していました。きらびやかな箱たちが並ぶ売り場で、「Uボードシリーズ」の箱があるカウンターだけ明らかに空気が違う。洗練されたデザインの化粧箱は、独特な存在感をまとってお客さんの目を引いていました。
コスメパッケージの常識が覆りましたね。
これまでの当たり前を変えなければ、新たなスタンダードは生まれません。それはクリエイティブも、板紙も同じです。
デザイナーさんと共に新常識を作っていけるのも、この仕事のおもしろさだと感じましたね。
周囲と手を取り、時代に新たな波を起こす
SDGsに注目が集まる今、「サステナブルペーパー」の取り組みも新たなスタンダードとして定着してゆくだろうと期待しています。
「サステナブルペーパー」事業は、企業の廃棄物をオリジナルペーパーや紙製品にアップサイクルする取り組みです。2001年にスタートし、十数社の実績があります。環境意識がさらに高まる中、今後も需要が拡大すると予想しています。
時代のニーズ、デザイナーのニーズに寄り添う大和板紙の今後の展望とは?
僕は、我々のようなメーカーが商品価格のみで勝負する時代は終わったと考えています。今は、サービスやオリジナリティ、システムなど、“商品+αの価値”を提供できる企業が必要とされる時代です。
この時代を戦い抜くためには、社員やデザイナーさん、クリエイターさんなどの協力が欠かせません。僕ひとりで出来ることには限りがありますから、周囲の考えやアイデア、ビジョンを共有してもらい、かたちにしてゆくことが大切です。そのため、2018年から社員教育制度を導入し、学びの機会を提供しています。
これからも大和板紙に関わってくださる皆様と手を取りながら、時代に新たな波を起こしていきたいですね。
北村社長の好きな板紙
「アスカF」
ねずみ色のボール紙で、一番ありきたりな「ザ・板紙」です(笑)
でも、これがすべての板紙のベースになっている気がします。
取材・文:佐藤 優奈
撮影:海野 敦
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